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空想科学『かいじゅうのすみか』プロジェクト

空想科学『かいじゅうのすみか』プロジェクト
特別対談

隠田雅浩(円谷プロダクション)

清水 節(映画評論家・クリエイティブディレクター)

取材・構成:秋廣泰生

『かいじゅうのすみか』…その誕生の背景には、物語や怪獣に対する、どんな思いがあったのか? 円谷プロダクション 隠田雅浩と、映画評論家・クリエイティブディレクター 清水 節さんの対談で、その深層を読み解きます!

キービジュアルとキーワード

清水:最初にイメージイラストを見せていただいた時に、バルタン星人やレッドキングといった人気怪獣は当然いるとしても、ムクムクやギジェラ、アンノンたちがいるという世界観が、たいへん素敵だと思いました。

隠田:ありがとうございます! 本当は、候補の怪獣たちがもっといたんですが、絵本を舞台にしたストーリーの流れに合わせて選抜していったのが、実は彼らなんです。例えばピグモンは、自ら人間の方に歩みよってくる、コミュニケーションをとろうとしてくる特徴がありますよね。ムクムクは宇宙人で、ピグモンの様に話し掛けてはきますが、言ってみれば “どこかでバッタリ出会った誰かと何かの物語が始まる”様な原作の背景を持っています。そうした怪獣たちそれぞれの距離感であったり、立ち振舞い方を考えた上で配役を考えていきました。ほかにも植物系の怪獣としてマンモスフラワー、ジュランも興味深い生態がありますが、誰かとの関わりで物語を作るのなら、やはりギジェラの方がいいなと。

清水:そしてもうひとつは“空想科学”という副題です。この使い方が、なかなかいいなと思いました。僕らは「空想特撮シリーズ」という言葉でウルトラマンシリーズを認知して育ってきた訳ですけれど、“空想科学”という言葉には、どちらかと言うとレトロな響きがあります。でもそれを、新たにこういう形で使うと、なかなか新鮮な感じがします。言ってみれば、空想というのはフィクションで、科学というのはサイエンスという意味なので、いわゆる“SF”であるということを指していると思うんですが、“空想科学”と表現する事によってエモーショナルな感じが加わって、この『かいじゅうのすみか』のイメージが、より伝わりやすくなっていると思いました。

隠田:まさに狙いはそこにありました。“空想科学”という言葉を使いたいと言い出したのは自分なんです。サイエンス・フィクションだということは、翻訳としては理解しているんですが、自分が考えているのは…科学というものは、これまで円谷プロが描いてきた多くの物語の中で、すごく重要なポイントだと思っているからなんですね。近代の科学には、どんな事に、どういう風に用いられるべきなのかという問い掛けがずっとあって、用い方が良ければ、すぐに人間にとって良い結果がもたらされるでしょう。でも、場合によっては予期しない結果をもたらすことだってあるんではないかという様に、ウルトラマンシリーズはもとより、様々な円谷プロの作品の中で、科学の用いられ方がポイントになっていました。そんな“科学”に“空想”と付くことで、そこにものすごい表現の豊かさがもたらせると思いますし、もうひとつは空想であるからこそ、何か描けることがあるのではないか?と考えたんです。これは、フィクションとかノンフィクションという線引きとは違うものだと思っていて、“空想”と“科学”という、このふたつの言葉が連なることで、円谷プロとしてのアイデンティティにものすごく重なる部分があるのではないかという風に考えているんです。そこで『かいじゅうのすみか』を送り出すにあたって、今こそ改めて“空想科学”を捉えていきたいと思ったんです。
 怪獣であれ宇宙人であれ、もっと言うとロボットであれ、みんな“空想科学”という概念の中から生まれてきています。だからこそ逆に言うと、科学的なリアリティも持っている。そもそも人間は、科学という基礎的なものを身に付けてその上で空想する訳ですから。
 それに本当の科学技術というものも、空想という探求心が無ければ生まれてこないと思うんです。「こんなものがあるんじゃないか?」とか「こんなものがあったらいいな」っていうニーズであったり夢であったり。そういうものを開発していくのが、人間の文明や営みだと思うんです。それを物語の中で表現し続けるのが、円谷プロのひとつの有り様なんじゃないかという風に思っています。

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