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空想科学『かいじゅうのすみか』プロジェクト

——ということは、薫堂さんは怪獣という存在に、何か学ぶべきものがあるという風に考えていらっしゃるという事でしょうか?

メッセージとは苦い薬みたいなもの

 「これは子ども目線ではなく、制作者目線の話になりますが、“かいじゅうのすみか”は、凄くクリエイティブな企画だなと思ったんです。子どもたちにとって怪獣は、キャラクターとして非常に分かりやすくて、みんなが興味を持ってくれる。みんなが大好きなものと言ってもいいと思うんですけれど、でも、その裏には深いメッセージ性があったと思うんですね。たとえば公害とか交通事故とか、人間の過ちが原因で生まれる怪獣もいましたよね。当時の社会問題を怪獣という表現方法を使って、子どもたちにメッセージを伝えていた大人たちがいたというのは、クリエイティブな発想力としても高度で深いなと思います。そういう意味で非常に硬派なクリエイティブだったんだなっていうのを、今、大人になって感じてカッコいいなと思います。最初の『ウルトラQ』や『ウルトラマン』から50年以上も経っているのに、どれも古臭くならないっていうのは、やっぱり怪獣を生み出す背景に、ちゃんとした大人の哲学みたいなものがあったから色褪せないんだろうなという風に思います。
 これは僕の敬愛する放送作家さんがおっしゃっていた比喩(ひゆ)なんですが…物語の中で放送作家が訴えたい社会の一端への思いっていうのは、言ってみれば苦い薬みたいなものであると。メッセージの中身が真っ当であり、的を得ていればいる程、人々は苦くて口にしない。それを甘い糖衣でどうやって包んで伝わるものにしていくか…それがテレビドラマなんだよって。だから、ウルトラマンのシリーズの中でも、まさに怪獣がひとつの糖衣みたいなものになって、子どもたちへ大切な事を伝え続けていたんじゃないかと思いますね」

——これから薫堂さんには“かいじゅうのすみか”の案内人として、折に触れていろんな言葉の道しるべを発信していただきたいと考えていますが、そこでまず、今回のイベントについての思いを、ぜひお聞かせください。

怪獣と出会うことで、
感性のアンテナを研ぎ澄ます

 「やはり50年前から現在に連面と息づく怪獣が主役になったイベントが行われるっていうのが、挑戦的だと思うし、実験的でもありますよね。今の時代、多様性っていう言葉がよく使われますけど、人と人とが個性を認めあう様な時代になってきている今、個性の際立った怪獣を主役にしたエンターテイメントが幕を開けて、怪獣たちとの遭遇が、僕らのいる現実の世界にいては見えてこなかった何かを感じられる機会になるだろうっていうのは、非常に面白いなと思っています。
 僕は常日頃、自分の常識をリセットして物ごとを見つめるっていう行為は、ものすごく大切な事だと思っていて、日常の中で、いつも当たり前のものだと思って接していたものが、何かのきっかけで、当たり前じゃなかったみたいだと思ってしまう瞬間が、みなさんの中にもあるんじゃないかと思います。それまでとは違う別の価値感が生まれる事が、生きている中で起こってくると思うんです。例えば高名な陶芸家の方が作った壺や皿の美しさが全然分からなかったとしても、誰かの助言や学びによって見方が変わってくると、価値の理由や意味が感じられてくる。また、蝶や蛾も見た目はよく似ているのに、それを綺麗と思ったり気持ち悪いと思ったりするのも、実は人間の勝手な思い込みですよね。どうしてそれを素敵だなと思うのか、思わないのか、その違いは何なんだろう?と考えていくと、視点の持ち方次第で自分が抱いていた常識が変わってしまうかもしれません。でもそれは、これまで駄目なものだと思っていた事がハッピーなものに見えてくるかもしれない可能性があるんだという事です。そんな風にして、いろんな見方が出来る様になるっていうのは、本当に大切なことだと思うんですよね。