TSUBURAYA GALAXY

TEXT SIZE

標準
怪獣プロファイル ケース1「ケムール人」

怪獣プロファイル
ケース1「ケムール人」

秋廣泰生

秋廣泰生 あきひろ・やすお

1967(昭和42)年生まれ。鹿児島県出身。
1980年代後半より、円谷プロ製作部/営業部でウルトラマンシリーズや円谷プロ作品を収録した黎明期のビデオ、レーザーディスクの制作(本編映像完パケ/映像特典、封入解説書執筆ほか印刷物全般)を担当。以降、円谷プロ作品のCD制作(曲構成・封入解説書執筆)、DVD制作(映像特典構成・演出、封入解説書執筆)に携わる。
CSファミリー劇場にて放送された、当時のスタッフや出演者をゲストに作品を紹介していく番組『ウルトラ情報局』では全話の構成・演出を担当。
その他、『バラサでブースカ』『ウルトラマンボーイのウルころ』『ウルトラマン列伝』で番組の構成・演出を、『帰ってきたアイゼンボーグ』ではドキュメンタリーパートの監督を務めた。
現在も、ウルトラマンシリーズや円谷プロ作品のCD、DVD、Blu-rayほか封入解説書執筆や、映像特典制作、書籍の執筆などを手掛けている。

 誘拐怪人ケムール人! 2020 年という未来の時間を持つ星からやってきた宇宙人で、種族の著しい老化による衰退を防ぐため、地球人の若い肉体を持ち去ろうと暗躍する。その姿を決してあかるみにすることなく、人間を瞬時に空間転移させる謎の液状物質を使って、次々に人間たちを手中に収めていった…。

 ケムール人が登場する「2020 年の挑戦」が初めてテレビ放送されたのが 1966 年。今から 50 年以上前の出来事だが、その頃から既に、やがて深刻化していくであろう高齢化社会問題に直結するテーマの物語が描かれていたことは驚きである。しかも、現実の時間が本当に 2020 年という刻みを迎えようとしている今、かつて高齢化社会と呼ばれた現象は“超高齢化社会”とまで呼ばれ、より一層の問題を抱えるまでになってしまい、「2020 年の挑戦」というエピソード内で示される種族の衰退と、これに歯止めをかけようとするケムール人の動向は、空想のドラマの出来事だと気軽に受けとめられない状況に陥りつつある。

 と同時に、視点を変えると、細胞や遺伝子の操作による様々なアンチ・エイジング技法が議論され研究されている現在は、ケムール人の手法とは異なる形での対処が、既に我々の世界でも始まっていると言えるだろう。

 そういった、物語の多角的な受け止め方を可能にしているのが、ケムール人という異形の存在である。もしも、ケムール人が地球人と全く同様の姿や性質を持った、単なる他天体の人類として登場していたらどうだっただろう? 地球人が、ひと目見て“排除出来る”と考え、たちまちのうちに包囲網を組んで駆逐したとしても不思議ではないし、結果、若い肉体を求めるケムール人の背後にある切迫した状況も“彼らの犯行理由”程度にしか語られず、一過性の事件として雲散霧消してしまいかねないだろう。

 ケムール人は、パトカーも追い付けない速度で疾走し、人間に変身し、そして遊園地の観覧車以上に巨大化した。そして、Xチャンネル光波によってしか倒すことは出来なかった。こうした怪物性の発現は、ケムール人が暗躍した意味を矮小化させない効用があったとは言えないだろうか? ケムール人の姿や造作が事件を象徴し、人々の記憶に刻み込ませるオブジェや傷跡の様な役割を果たしたからこそ、物語の中の 2020 年の世界で発生していた窮状は、とある概念としてではなく、様々な実感を伴うメッセージとして、私たちに確かに伝わっていったのだと。