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日本人とウルトラマン

日本人とウルトラマン
第11回 怪獣たちの墓場

中沢新一

中沢 新一(なかざわ しんいち)

1950年、山梨県生まれ。思想家・人類学者。明治大学野生の科学研究所所長。インド・ネパールでチベット仏教を学び、帰国後、人類の思考全域を視野にいれた研究分野(精神の考古学)を構想・開拓する。著書に『チベットのモーツァルト』、『森のバロック』『フィロソフィア・ヤポニカ』『アースダイバー』『カイエ・ソバージュ』シリーズ、『芸術人類学』『野生の科学』『大阪アースダイバー』『熊楠の星の時間』ほか多数。日本の各地における歴史や文化の生成を人文科学と自然科学の両観点から解き明かそうとする試みである「アースダイバー」プロジェクトや展覧会の監修など、多岐に渡る活動を展開している。

 怪獣はもともと人間の敵ではなかったのです。人間の文明の発達によってバランスを壊された自然の奥から、行き場を失った自然力が怪獣の姿をとって出現するのです。その自然力は大津波や地震のように強大な力をもっているので、人間文明の産物であるビルディングや高速道路やダムに触れてしまうと、とてつもない破壊がもたらされます。そうなると人間はこの怪獣たちと戦わなくてはなりません。
 人間の力には限界がありますから、この戦いに宇宙人ウルトラマンが手助けに入り、怪獣たちと決死のバトルをくりひろげることになります。ほとんどの怪獣がこの戦いでウルトラマンに倒されていきます。ウルトラマンの必殺光線によって撃退されたり、宇宙空間に投げ出されて地球から放逐されてしまいます。

 しかしその戦いは宇宙になにをもたらすことになったのでしょう。倒された怪獣たちの「魂」はどうなってしまうのでしょう。この疑問はこのシリーズが回を重ねるごとに、製作者の側にも視聴者の側にも、少しずつ少しずつ蓄積されていったことでしょう。「戦いの後」に残されたこの重い問いに、『ウルトラマン』は真摯(しんし)に答えをあたえようとしています。この真摯な答えをていねいに検討してみますと、私たちは「日本人とウルトラマン」という問題に新しいレベルの理解が開かれてくるのを感じます。

 毎回少しずつ蓄積されていった重い問いかけに見事な解答を示したのは第35話の『怪獣墓場』という作品です。そこには、ウルトラマンや科特隊に倒された怪獣の運命をめぐるほとんど哲学的とも言える物語が展開されています。そしてそこにこめられた哲学の中に、死者の運命について日本人が抱いてきた古くて新しい思想を見ることができます。