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日本人とウルトラマン

日本人とウルトラマン
第13回 神話からSFへ

中沢新一

中沢 新一(なかざわ しんいち)

1950年、山梨県生まれ。思想家・人類学者。明治大学野生の科学研究所所長。インド・ネパールでチベット仏教を学び、帰国後、人類の思考全域を視野にいれた研究分野(精神の考古学)を構想・開拓する。著書に『チベットのモーツァルト』、『森のバロック』『フィロソフィア・ヤポニカ』『アースダイバー』『カイエ・ソバージュ』シリーズ、『芸術人類学』『野生の科学』『大阪アースダイバー』『熊楠の星の時間』ほか多数。日本の各地における歴史や文化の生成を人文科学と自然科学の両観点から解き明かそうとする試みである「アースダイバー」プロジェクトや展覧会の監修など、多岐に渡る活動を展開している。

 人類は自分たちをとりまく世界の「意味」を理解しようとして、大昔からさまざまな神話の物語を紡ぎだしてきました。世界のはじまりや人間の起源について、文化と言語の発生について、動物や植物の世界の多様性についてなど、神話が語りだしてきたテーマはじつに豊富です。狩猟採集で生きていた時代の神話は、農業が開始され都市が生まれてきたあとも、形を変えて語り注がれました。神話は人間が世界の中に生きる「意味」について、深いレベルからの答えをあたえてくれます。現代になっても、世界の裏側に隠された真実の「意味」を物語る神話の思考は、日本人にしぶとく受け継がれてきました。これほど高度に発達した機械文明の世界に生きていながら、日本人ほど太古からの神話の思考を生かしている民族も少ないでしょう。『ウルトラQ』『ウルトラマン』がそのことを証明しています。ウルトラマンシリーズの物語の中には神話の思考が見事に花開いている、そのことをこれまでの連載で、私たちは読み解いてきました。

 1967年、ここで新たに始まったのが『ウルトラセブン』でした。『ウルトラマン』の路線を引きつぎ、「地球を守るために戦うチームとその一員でもある主人公が正義のヒーローに変身して敵と戦い勝利を収める」という、一見すると前作を踏襲した形式にも見られるこの作品は、しかし本質的な部分で大きな変容・転換をとげることになりました。『ウルトラマン』の根幹には神話的思考が据えられています。神話独自の論理規則があって、それが登場人物や物語の構造を無意識に規制していました。そういう作品が日本の大衆に人気を博したというのは、大衆の方にも神話の思考を受け入れる素地が豊かに生きていたということでもあるでしょう。しかし『ウルトラセブン』はそこからSFへの飛躍を試みたのです。SFはサイエンス・フィクション、つまり「科学的な」物語です。神話のやり方ではとうていおさまりのつかない要素がたくさん出てきます。そういう難しさを乗り越えて、『ウルトラマン』は『ウルトラセブンへ』へと姿を変えて生きました。今回はそのとき起こった神話からSFへの転換について、考えてみたいと思います。