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日本人とウルトラマン

日本人とウルトラマン
第14回 危機をもたらすもの

中沢新一

中沢 新一(なかざわ しんいち)

1950年、山梨県生まれ。思想家・人類学者。明治大学野生の科学研究所所長。インド・ネパールでチベット仏教を学び、帰国後、人類の思考全域を視野にいれた研究分野(精神の考古学)を構想・開拓する。著書に『チベットのモーツァルト』、『森のバロック』『フィロソフィア・ヤポニカ』『アースダイバー』『カイエ・ソバージュ』シリーズ、『芸術人類学』『野生の科学』『大阪アースダイバー』『熊楠の星の時間』ほか多数。日本の各地における歴史や文化の生成を人文科学と自然科学の両観点から解き明かそうとする試みである「アースダイバー」プロジェクトや展覧会の監修など、多岐に渡る活動を展開している。

コロナ禍のウルトラマンシリーズ

 「日本人とウルトラマン」の視点で、新型コロナウィルスを取り巻く今回の状況を見てみると、そこには興味深い符合が浮かび上がってきます。それというのも、新型コロナウィルス発生の過程は、まるでウルトラマンシリーズの展開のさまにそっくりだからです。

 もともとウィルスは数万年にわたり、森に住むコウモリやアカゲザルに寄生して生きてきた生物と非生物の中間の存在です。ウィルスは森の動物の体内にひっそりと生きてきて、人間にはめったに近づいてはきませんでした。ところが、最近の森林の乱開発によって、ウィルスの寄生主である動物たちの生存域が奪われてきて、そこから人間とウィルスの急接近が起ってしまいました。森林開発や動物の捕獲によって、いままで森の中にいたウィルスが人間の生活圏近くへと引き出されてきてしまいました。

 新型コロナウィルスについては、中国武漢の魚介類市場から出たとかそこのウィルス研究所の実験用コウモリから感染が広まったとか、発生源についてはさまざまな憶測が流れていますが、感染拡大の過程をみてみると、『ウルトラQ』や『ウルトラマン』に描かれてきた問題とたいへん似通った構造を持っていることに驚かされます。ウルトラマンシリーズでは、不用意な自然の開発行為が進められてしまった結果、それまでは人間とは関わりのないところで静かに安らいでいた「自然」と人間との間に破壊的な関わりが生まれてしまい、それが人類を危機に陥らせてしまうような怪獣の出現をうながしてきました。この意味で、怪獣とウィルスの出現の理由には共通性があります。ウルトラマンシリーズの作者たちは、このような構造を強く意識しながら、この作品をつくっています。