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日本人とウルトラマン

日本人とウルトラマン
第4回 科学の影の部分

中沢新一

中沢 新一(なかざわ しんいち)

1950年、山梨県生まれ。思想家・人類学者。明治大学野生の科学研究所所長。インド・ネパールでチベット仏教を学び、帰国後、人類の思考全域を視野にいれた研究分野(精神の考古学)を構想・開拓する。著書に『チベットのモーツァルト』、『森のバロック』『フィロソフィア・ヤポニカ』『アースダイバー』『カイエ・ソバージュ』シリーズ、『芸術人類学』『野生の科学』『大阪アースダイバー』『熊楠の星の時間』ほか多数。日本の各地における歴史や文化の生成を人文科学と自然科学の両観点から解き明かそうとする試みである「アースダイバー」プロジェクトや展覧会の監修など、多岐に渡る活動を展開している。

『ウルトラQ』にはじまるウルトラマンシリーズの全体を通してみると、「科学」が大きな主題になっているのがわかります。作品の中では「ハニーゼリオン」「ペギミンH」や「チルソナイト」など、そのつど現れる科学的要素が怪獣を誕生させたり、撃退したりします。怪獣を科学的見地から解説してくれる「博士」も登場して、子供たちに、怪獣は現実にいるのかもしれないという気持ちを抱かせたりもします。この「科学」という主題は『トワイライト・ゾーン(ミステリー・ゾーン)』の背後にあるサイエンス・フィクションの流れを汲みながら、当時の時代的背景を反映しつつ、『ウルトラQ』以降のシリーズでも大きなテーマになっていきます。ウルトラマンシリーズを貫く「自然・科学・人間」という3本の軸の中で、今回はこの「科学」の軸について考えてみたいと思います。

仄(ほの)暗い科学の底

 もっとも科学といっても、学校で勉強するような近代になって確立された厳密科学のことだけが問題なのではありません。そういう科学の母体となった「自然を相手にする思考」のすべてが、ここでは問題になってきます。いまでは「非科学的」と言われてしりぞけられてしまうような想像力豊かな思考であっても、そこから近代科学が生まれ出る「元型」となったものがあります。SFはしばしばそういう「元型」的思考を源泉としています。ウルトラマンシリーズが深い関わりを持っているのも、そうした近代科学の「元型」になってきた思考です。

近代科学の端緒は16世紀から17世紀に開かれます。16世紀、コペルニクスによって提唱された地動説は、それまで信じられていた天動説の価値観を大きく転換させることになりました。キリスト教の神によってつくられた自然という認識から事象そのものとしての自然への大きな視点の転換は、ガリレオ・ガリレイやケプラー、ニュートンなどに代表されるような、天文学や物理学の法則の発見によって、さらに進められていきます。近代科学が生まれたこの時代、しかし学問はまだ領域が未分化でした。天文学者は同時に神学者であり、哲学者で、医者で、化学者で、数学者で、占星術師でもありました。そして彼らの多くはまた、ニュートンがそうであったように、錬金術師でもありました。